Mさんからのお手紙(患者さんよりパート2)

患者さんの向井さんよりお手紙を頂き、本人の了解の下、掲載いたします。向井さんとは昔から家族ぐるみで良好なお付き合いをしていますが、このように高く評価して頂き、恐縮の限りです。今後も現役歯科医として、頑張ろうと気を引き締めました。

佐藤歯科医院の玄関に立つとチャイムは鳴る。「やぁ、お元気?」「しばらく!」「みなさに、お元気にしている?」久しぶりに先生と僕が交わすのは大体この三つだ。そして、前回以来の空白が充たされる。

僕が始めて佐藤先生に診て頂いてもう40年になる。生来の不摂生と横着な性癖に対する治療だが、先生はよく辛抱してくださった。歯と車は似たところがある、と勝手に思っている。僕は車の運転も下手だ。今まで4台も壊した。重大な事故に至らなかったのは奇跡だと自分でも思い、デイラーに「いくらいい車を紹介してもすぐ壊してしまう」と愛想をつかされた。今は息子に運転させている。だが、歯は我が身だから、簡単に選手交代出来ない。“歯痛”の痛みは体験者以外わからない。「歯医者にこの痛みはわからないな」と不埒なことを考えながら、診察台で先生の顔を眺めていたことも思い出だ。

年末に、僕の書斎が足の置き場がない惨状だったので片付けていたら、アルバムに一枚の写真を見つけた。欧米、アジア、アラブ系の和やかに楽しんでいるパーティーの写真だ。どの顔も笑っている。外国人留学生支援活動で佐藤先生とご縁ができた。場所は佐藤歯科医院の待合室で、参加した家内は帰るとすぐ「佐藤先生は本当に豊な心を持っている方だわ」と、その日の感動的出来事について話した。家内の話によれば、その日のパーティー会場にゴリラが突然乱入し、みなアッと驚き、次に大爆笑になった。そのゴリラがお面を被った佐藤先生であるとわかると更に笑い転げ、会場は大いに盛り上がったという。参加者は外国人留学生で多国籍にわたっていた。彼らは普段孤立しがちで、日常簡単なことでも困ることが多い。「そのような人たちを応援しよう!私たちも外国に行けば同じ立場じゃないか」佐藤先生と家内の企画の目的はそこにあった。彼らとの交流はその後も続き、みな留学目的を達成し、元気に帰国した。

僕は今、児童養護施設の支援事業に関わっている。社会への恩返しだ。定年前は病院に勤め、空白の30年間を過ごしたが4人の子育てが出来、感謝している。僕がいう空白は「福祉や医療の動機と社会基盤が見つからなかった」という意味だ。病院は社会の縮図だ。玄関をくぐった途端、誰もが“患者”という言葉で一括りになり、病気になれば患者はみな、弱者になるという点で平等だ。

家内の感動は、先生のなりふり構わないパフォーマンス内に“弱者への差別ない優しさ”があることを本能的に感じ取ったためだろう。僕が佐藤先生の素晴らしい履歴を知ったのはずっと後のことだ。佐藤先生のおかげで僕の歯はまだ生きている。「僕が生きている間は現役で!」と、毎度お願いしている。歯科医である前に、そこに人間“佐藤先生”が存在するからだ。

向井 克忠様